ICl分子の光分解反応の解析
   

光反応では一般に複数の電子状態を考える必要があります。 それでは分子は複数の電子状態に励起したあと、どのような挙動を示すのでしょう? 私たちは光反応によって分子がどのような挙動を伴って生成物に至るのかを解明することを目的として研究していますが、 実はその複数の分解過程に着目することで、生成物の量子状態には面白い特徴が現れることが明らかになりました。 たとえばICl分子の光反応について、以下の特徴を明らかにしてきました。

光の振動電場に対して分子が平行であるときと垂直であるとき、それぞれ異なる電子状態に励起します。 では、分子が斜めを向いていたら、どちらの電子状態に励起するのでしょう? ここでは、量子力学における重ね合わせの原理が重要になります。 実は平行成分と垂直成分の波の重ね合わせによって、生成物の角運動量が分極して観測されるのです。 このとき平行成分と垂直成分の位相を決定しているのが生成物のド・ブロイ波です。 あたかもヤングの二重スリットの実験で見られる干渉縞模様のように、2成分のド・ブロイ波が干渉する様子を生成物の角運動量分極として「みる」ことができます。

このような干渉現象は、IClの光反応の生成比にも強く影響を及ぼすことが明らかになりました。 複数の電子状態の吸収スペクトルが重なっていて、なおかつ、これらの状態が核の運動によって混ざり合うことが起こると、干渉現象が生成物の収量に大きな影響を及ぼします。 特におもしろいのは、この干渉現象が核運動のド・ブロイ波によって特徴付けられることです。 IとClのように比較的重たい原子なのに、この干渉効果は非常に緩やかなエネルギー依存性を示すことが分かりました。
ICl分子のように比較的単純な分子でもその光反応はとても複雑で、大変興味深いものです。 これまで私たちが行ってきた光反応の理論解析は、非常に高精度な計算にもとづいたものです。 このように単純な分子の光反応においても、ほとんどの実験化学者にとって「ブラックボックス」に閉ざされた部分が多く残されています。 私たちの研究は、その「ブラックボックス」の中で何が起きているのか理論化学の目で解明することを可能とするものです。