光分解反応、光イオン化反応の理論的研究
   

人に石をぶつけると、その人は怒るでしょう。石の大きさ・速度とそのぶつけられる人の性格によって怒り方も様々です。なかには切れてしまう人もいるでしょう。分子に光をあてると、エネルギー的に不安定な励起状態に遷移したり、電子がイオン化したり、あるいは化学結合が切れて分解が起ります。分子の切れ方も様々です。

我々は、色々な分子が光で励起された後どのような経路を通って分解生成物に至るかを理論的に調べています。実験的には、入力と出力しか見えませんから、その二つの関係によりブラックボックスの中身を推定するだけです。しかし我々には、分子の運動を記述する理論化学とコンピュータという強い武器を持っていますから、ブラックボックスの中で、反応分子が一体どの様な相互作用を受けて、どのような生成物がどの様な割り合いで生じるのかをシミュレートすることが可能になっています。つまり我々には分子が変形する様や、化学結合が再配列を起こす様を「見る」ことができるのです。
この様な手法により、様々の分子の複雑な反応過程を明らかにしてきました。また国内外の実験グループと共同研究を行っています。
また最近では、環境化学のトピックスのひとつであるオゾン層破壊に関連して、大気中の環境分子の濃度変化を正確に評価・シミュレートするために、第一原理計算によって
  O2 + hν →2O
  Cl2 + hν →2Cl
  O2 + hν →O2+ + e-

など、様々な素過程の基礎データを精密に求め解析を行っています。これは、壊れたオゾン層をどうやって元に戻すかといったことを明確に予測するためには、各素過程の光波長依存性や生成物の内部エネルギー分布、化学反応の温度依存性などを正確に知る必要があるからです。特に分子の光イオン化の効率を正確に求める事は、今日でも困難な問題ですが、我々は、従来原子に応用されていた複素座標法と呼ばれる理論を分子用に拡張し、さらに新しい基底関数の構築法を開発し、これらの計算に役立てています。
【関連研究テーマ】
  1. I3-分子の光分解反応の解析
  2. ICN分子の光分解反応の解析
  3. ICl分子の光分解反応の解析
  4. 光合成アンテナ系LH2における励起移動速度の算出
  5. 電子共鳴状態計算における複素数基底関数の最適化
  6. 複素基底関数法による光イオン化断面積の効率的な計算
【関連論文】
  1. M. Morita, S. Yabushita, “Photoionization cross sections of H2+ and H2 with complex Gaussian-type basis functions optimized for the frequency-dependent polarizabilities”, J. Comp. Chem., 29, 2471-2478 (2008).
  2. M. Morita, S. Yabushita, “Calculations of photoionization cross sections with variationally optimized complex Gaussian-type basis functions”, Chem. Phys., 349, 126-132 (2008).
  3. M. Morita, S. Yabushita, “Photoionization cross sections with optimized orbital exponents within the complex basis function method”, J. Comp. Chem., 29, 2317-2329 (2008).
  4. R. Nakanishi, N. Saito, T. Ohno, S. Kowashi, S. Yabushita, and T. Nagata, “Photodissociation of gas-phase I3- : Comprehensive understanding of nonadiabatic dissociation dynamics”, J. Chem. Phys., 126 , 204311 (2007).
  5. Y. Asano, A. Murakami, T. Kobayashi, D. Guillaumont, S. Yabushita, M. Irie, S. Nakamura, “Theoretical Study on the Photochromic Reactions of Dithienylethenes; On the Role of Conical Intersections”, J. Amer. Chem. Soc., 126, 12112-12120 (2004).
  6. Y. Asano and S. Yabushita , “Theoretical Study on the Nonadiabatic Transitions in the Photodissociation of Cl2 , Br2, and I2”, Bulletin of the Korean Chemical Society, 24, 703-711 (2003).
  7. Y. Asano and S. Yabushita, “Theoretical Study of Nonadiabatic Transitions in the Photodissociation of Cl2 and Br2”, Chem. Phys. Lett., 372, 348-354 (2003).
  8. Y.Asano and S.Yabushita, "Theoretical Study on the Nonadiabatic Transitions in the Photodissociation Processes of Cl2", J. Phys. Chem., A105, 9873-9882 (2001).
  9.  A. J. Alexander, Z. H. Kim, S. A. Kandel, R. N. Zare, T. P. Rakitzis, Y. Asano, and S. Yabushita, "Oriented Chlorine Atoms as a Probe of the Nonadiabatic Photodissociation Dynamics of Molecular Chlorine", J. Chem. Phys., 113, 9022-9031 (2000).
  10. T. Yasuike and S. Yabushita, " Valence Photoionization and Autoionizing States of Acetylene Studied by the Complex Basis Function Method in the Random Phase Approximation", Chem. Phys. Lett., 316, 257-265 (2000).